農政コラム|「農業構造転換集中対策期間」の5年で、経営者は何を決めておくべきか
令和7年度から11年度までの5年間は、国が「農業構造転換集中対策期間」と名前をつけた期間です。予算の付き方も、求められる経営の姿も、この5年で決まります。何に手を挙げ、何を見送るのか──いま決めておくべきことを整理します。
令和7〜11年度が「集中対策期間」と名指しされた意味
2025年(令和7年)4月11日、改正・食料・農業・農村基本法に基づく初めての食料・農業・農村基本計画が閣議決定されました。この計画のいちばんの特徴は、5年間の期限を切ったことです。
計画は、令和7年度から11年度までを「農業構造転換集中対策期間」と位置づけ、初動の5年で集中的に構造転換を進めるとしています。「そのうち」ではなく「この5年で」と国が宣言した、ということです。
この位置づけは、そのまま予算の形になっています。令和8年度予算では「農業構造転換集中対策」という名前の対策が新設され、令和8年度当初で494億円、令和7年度補正で2,410億円が計上されました。
| 対策の柱 | 令和8年度当初の内訳 |
|---|---|
| 農地の大区画化・排水対策等 | 166億円 |
| 共同利用施設の再編集約・合理化 | 238億円 |
| スマート農業技術の開発 | 54億円 |
| 輸出産地の育成 | 37億円 |
※ 農林水産省「令和8年度農林水産関係予算概算決定の概要」より。金額は当初予算の内訳です。
並んでいる項目を見ると、国が何をしたいのかは明確です。農地をまとめ、施設を減らして共同化し、技術で人手を補い、外に売る。この4つに予算を寄せています。
2035年の目標が示す「求められる経営像」
基本計画は、2035年(令和17年度)を目標年次として複数の指標を掲げています。従来のように食料自給率だけを見るのではなく、複数のKPIで進捗を測る形に変わりました。
| 指標 | 2035年度の目標 |
|---|---|
| 食料自給率(摂取ベース・新指標) | 53% |
| 食料自給率(カロリーベース) | 45% |
| 農地面積の見通し | 412万ha |
| 農林水産物・食品の輸出額 | 5兆円(2030年) |
| 49歳以下の担い手 | 現水準(約4.8万人)を維持 |
| 米の生産コスト(15ha以上の層) | 11,350円 → 9,500円/60kg |
| 農村地域の付加価値額 | 22兆円 |
経営者の立場から見て、いちばん重い数字は米の生産コストです。15ha以上の経営でも、60kgあたり11,350円から9,500円へ、約16%の引下げが目標として置かれています。これは「頑張って節約する」水準ではありません。作業体系そのものを組み替えなければ届かない数字です。
裏を返せば、農地の大区画化、共同利用施設の再編、スマート農業技術の導入に予算が集中しているのは、この数字を実現するための手段だからです。予算メニューは、目標から逆算して設計されています。
この5年で、経営者が決めておくべき4つのこと
- 投資のタイミングを、この5年に寄せるかどうか集中対策期間は、補助率や採択のしやすさという面で追い風になり得る期間です。一方、5年後に同じ条件が続く保証はありません。機械や施設の更新時期が6〜7年後に来る場合、前倒しするかどうかを一度検討する価値があります。
- 地域計画・認定農業者に位置づけられているか近年の補助事業では、地域計画の目標地図への位置付けや、認定農業者であることが要件やポイント加算になる例が増えています。「制度を使う資格」を先に整えておかないと、良い事業が公募されても土俵に乗れません。
- 労働生産性の目標を、自分の数字で持つ国が示すのは全国平均の目標です。自分の経営で「10a当たり何時間」「60kg当たりいくら」が現状で、どこまで下げるのかを数字で持っていないと、事業計画の成果目標が書けません。補助事業の申請では、この数字がそのまま採否を分けます。
- 共同利用施設の再編に乗るか、単独で持つか令和8年度当初で238億円が「共同利用施設の再編集約・合理化」に充てられています。老朽化した乾燥調製施設や集出荷施設を、単独で建て替えるのか、地域でまとめるのか。この判断は数年単位で影響が残ります。地域の議論が始まってから考えるのでは遅く、こちらから提案する側に回るほうが有利です。
「集中」の裏側にあるリスクも見ておく
予算が集中する時期は、同時に「効果の証明」を強く求められる時期でもあります。たとえば強い農業づくり総合支援交付金の令和8年度制度では、産地基幹施設について原則として総事業費5,000万円以上、費用対効果分析で投資効率1.0以上といった要件が示されています。
「補助金があるから建てる」ではなく、「この施設を入れると経営がこう変わる」を数字で説明できるかが採否を分けます。設備の見積りより先に、現状の課題と改善後の姿を整理してください。
もうひとつ、期間終了後の反動も想定に入れておく必要があります。集中対策期間の5年で構造転換が進めば、その後の政策は「支える」より「維持する」方向に移る可能性があります。この5年で終わる投資計画ではなく、その先10年の返済と更新まで見た計画にしておくこと。それが、集中期間との正しい付き合い方だと考えています。
まとめ
① 機械・施設の更新時期を洗い出し、集中対策期間に寄せられるものがないか確認する
② 地域計画の目標地図に位置づけられているか、認定農業者かを確認する
③ 10a当たり労働時間・60kg当たり生産コストなど、自分の数字を把握する
④ 共同利用施設の再編について、地域で議論が始まる前に自分の考えを持つ
どれも、公募が始まってから着手したのでは間に合わない項目です。逆に言えば、いま整理しておけば、次に良い公募が出たときに動けるということでもあります。
※ 本記事は2026年8月時点で公表されている情報に基づいています。制度の詳細・要件は、年度、地域、公募状況等により変更される場合があります。個別の判断にあたっては、最新の実施要領・公募要領および所管行政機関の運用をご確認ください。
やまと-農-は、農林水産省33年・行政書士12年の経験をもとに、国の制度と実際の農業経営をつないで整理します。「うちの場合はどうか」という段階からで構いません。
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