令和9年度から水田政策はどう変わるのか ─「水田を支援する農政」から「生産性と需要を支援する農政」へ
令和9年度(2027年度)から、水田政策が大きく変わります。これは「水田活用の直接支払交付金」の一部変更ではなく、「水田で何を作るか」から「どの作物を、誰の需要に向けて、どれだけ効率的に生産するか」へという、政策の重点そのものの転換と考える必要があります。
農業者や農業法人にとって、令和9年度は今後の営農計画を考えるうえで、大きな転換点になる可能性があります。この記事では、なぜ見直すのか、何がどう変わるのか、そして令和8年度のうちに何をしておくべきかを順に整理します。
1.なぜ今、水田政策を見直すのか
水田政策見直しの背景には、一つの原因ではなく、日本農業を取り巻く複数の構造的な問題があります。
第一に、農業者の減少と高齢化です。今後、農業従事者の減少がさらに進めば、現在と同じ農地面積を、現在と同じ方法で維持していくことは難しくなります。
第二に、食料安全保障の重要性の高まりです。国際情勢や資材価格の変動などを考えると、国内の食料供給力を維持・強化することは、農業政策だけではなく国家的な課題となっています。
第三に、米をめぐる需要構造の変化があります。主食用米だけを見るのではなく、加工用米、米粉用米、輸出用米、麦、大豆、飼料作物などを含め、実際の需要に対応した生産体系を構築する必要があります。
さらに、高温障害や豪雨などの気候変動、肥料・燃料等の生産資材価格、労働力不足なども、水田農業の経営環境を大きく変化させています。

限られた農地と労働力をできるだけ有効に活用するため、今後の農政では「水田そのものを維持すること」から「農地を活用して食料を効率的に生産すること」へ、政策の重点が移っていくと考えられます。
2.令和9年度から、支援の考え方はどう変わるのか
農林水産省は令和8年(2026年)6月11日、「新たな水田政策(コメの中長期対策)の基本的考え方・仕組み」を公表しました。現在の水田政策では「水田活用の直接支払交付金」が重要な役割を果たしていますが、令和9年度以降は、水田であることを基礎とした支援から、作物ごとの生産性向上や需要を重視した支援へ転換する方向が示されています。ここが、今回の制度見直しを理解するうえで最も重要なポイントです。

3つの柱
| 区分 | 令和9年度からの考え方 |
|---|---|
| ① 非主食用米(米粉用米・飼料用米等) | 用途を問わず、生産性向上の取組を一律に支援。実需者との複数年契約を要件に追加支援あり |
| ② 麦・大豆・飼料作物 | 収量に応じた面積払いで単収向上を支援 |
| ③ 産地交付金 | 「作付面積の拡大」中心から、生産性・収益性の向上、供給の安定化を効果評価する目標設定型へ |
注目すべきは②です。これまでの面積払いは「作付けした面積」に対して支払われていましたが、収量に応じた面積払いに切り替わると、同じ面積でも単収によって受け取る額が変わることになります。つまり、「何ha作ったか」だけではなく、「その農地からどれだけの成果を生み出したか」という視点が強くなります。
なお、単収の基準について農林水産省は、全国一律ではなく地域差に配慮するとしています。また、災害等のやむを得ない事情による減収への対応も検討されています。
3.「5年水張りルール」はどうなるのか
農業現場で大きな関心を集めてきたのが、いわゆる「5年水張りルール」です。水田活用の直接支払交付金には、5年に1度は水張り(湛水)をしなければ交付対象水田から除外される、という取扱いがありました。
農林水産省は、新たな水田政策への転換に伴い、令和9年度以降は「5年水張りの要件」を求めない方針を示しています。
「5年水張りルールがなくなる」ことと、「現在と同じ水田活用支援がそのまま続く」ことは同じではありません。令和9年度以降は制度そのものが組み替えられ、生産性や需要を重視した新しい支援体系へ移行します。
「水張りをすべきか」「畑地化すべきか」で迷っている場合、令和8年度中に結論を出す必要があるかどうかを、まず確認してください。制度の詳細は令和8年度中に固まる予定で、いまの前提で急いで判断すると、かえって不利になる可能性があります。
秋播き麦など、すでに作付けに着手している品目の令和9年度当初の取扱いについては、継続して検討するとされています。地域の説明会に出て、最新の情報を取りにいくことが最も確実です。
4.「需要に応じた生産」が一段と重要になる
今後の水田農業を考えるうえで、もう一つ重要なのが実需者との連携です。
加工用米、米粉用米、輸出用米、麦・大豆、飼料作物などについて、「作ってから販売先を探す」のではなく、「誰が必要としているのかを確認してから生産する」という考え方が、これまで以上に重要になります。
複数年契約などによって生産者と実需者を結び、安定した生産と販売を実現する方向も、今後の政策を考える重要なポイントです。
5.農地の集積・集約化も、水田政策と一体で考える
生産性を高めるためには、農業機械を導入するだけでは十分ではありません。小さな農地が各地に分散していれば、大型農業機械やスマート農業技術を導入しても、その能力を十分に発揮できない場合があります。
そこで重要になるのが、地域計画・農地バンクを活用した農地の集積・集約化です。農地を集約し、大区画化・汎用化を進め、その上でスマート農業や省力化技術を導入する。こうした一連の政策を別々に見るのではなく、農業構造を転換する一つの流れとして捉える必要があります。
6.令和9年度以降、とくに注目したい5つの方向

- 生産性の向上単収向上、省力化、コスト削減、高温耐性品種、直播、スマート農業など、生産性を高める取組が重要になります。
- 需要に応じた生産主食用米だけではなく、加工用米、米粉用米、輸出用米、麦、大豆、飼料作物などについて、需要を確認したうえで生産する考え方が強まります。
- 農地の集積・集約化地域計画や農地バンクを活用し、担い手への農地集積・集約化、大区画化、汎用化を進めることが重要になります。
- スマート農業・省力化農業者が減少するなか、少ない人数でより広い農地を管理するため、スマート農業技術や自動化・省力化技術の重要性が一層高まります。
- 持続可能な水田農業環境負荷低減、中山間地域への配慮、地域農業の維持など、生産性だけでは測れない農業の多面的な役割についても、新たな支援体系との関係を確認していく必要があります。
7.米の流通制度も、あわせて動いています
水田政策と並行して、米の流通制度も変わりました。令和8年(2026年)7月15日、主要食糧法(食糧法)の改正法が公布されています。主な内容は次のとおりです。
- 流通実態把握の強化:届出対象を加工・中食・外食事業者に拡大し、定期報告制度を新設。在庫量・取引量・取引価格等を、規模に応じ月1回〜年1回報告
- 備蓄の見直し:備蓄の目的を「生産量減少への対応」から「需要増加等による供給不足への対応」にも拡張し、民間備蓄制度を創設
- 生産調整規定の削除:形骸化していた生産調整関連規定を廃止し、「需要に応じた生産の促進」を法律に位置づけ
これらを合わせて読むと、国の方向性は一貫しています。面積を割り当てて調整する時代は終わり、需要と生産性で決まる時代に移っているということです。
8.令和9年度を待ってから考えるのでは遅い
具体的な支援単価や細かな交付要件については、今後の制度設計によってさらに明らかになります。そのため、現時点では確定していない部分もあります。
しかし、政策の大きな方向性はすでに見え始めています。農業経営者としていま考えておきたいのは、「どの農地で、何を、誰に向けて、どの程度の収量・コストで生産するのか」ということです。
地域計画、農地集約、実需者との契約、スマート農業による省力化、麦・大豆・加工用米・米粉用米・輸出用米などの組合せを、令和9年度になってからではなく、いまから経営計画のなかに組み込んでいくことが重要です。令和8年度は、地方説明会と制度設計の詳細検討が行われる年です。制度が固まってから動くのではなく、この1年で経営側の準備を進めておくことをおすすめします。
- 交付金への依存度を、数字で把握するまず、直近3年の経営収支のうち、水田活用の直接支払交付金と産地交付金が占める割合を計算してください。「作物ごとの生産性で決まる」制度に変わったとき、自分の経営のどこが増減するのかは、この数字がないと試算できません。
- 圃場ごとの単収を測る仕組みをつくる収量に応じた面積払いになる以上、圃場ごとの単収を把握していることが前提になります。これまで全体の出荷量しか記録していなかった場合、令和8年産から圃場別に記録する体制を整えてください。収量コンバインや営農管理システムを使えば負担は減らせますが、まずは記録の習慣が先です。
- 実需者との複数年契約を検討する非主食用米では、実需者との複数年契約が追加支援の要件として示されています。単年の相対取引を続けている場合、複数年契約に切り替えられる相手がいるかどうかを、いまのうちに打診しておく価値があります。
- 産地交付金の使い道を、地域で議論する産地交付金は「効果を評価する目標設定型」に変わります。地域協議会でどの取組に配分するかが、これまで以上に経営に直結します。配分が決まってから意見を言うのではなく、議論の段階から参加してください。
まとめ|これからの水田農業は「農地」から「経営」へ
今回の水田政策の見直しは、単なる交付金制度の変更ではありません。大きな流れとして捉えれば、「水田を維持するための政策」から「需要に対応し、生産性の高い農業経営をつくる政策」への転換と見ることができます。
その先には、食料安全保障の確保と、農業者が継続的に所得を確保できる農業の両立という大きな政策目標があります。
① 直近3年の交付金依存度(収入に占める割合)を計算する
② 令和8年産から、圃場ごとの単収を記録する体制をつくる
③ 非主食用米の実需者に、複数年契約の可能性を打診しておく
④ 地域の説明会に出て、産地交付金の配分議論に参加する
⑤ 「5年水張りルール」の判断は、制度の詳細が固まるまで急がない
制度が変わるとき、いちばん不利になるのは変わってから慌てて動く経営です。逆に、いま自分の数字を持っている経営は、制度の詳細が固まった瞬間に動けます。
令和9年度からの水田政策については、今後、支援単価、対象作物、交付要件、産地交付金、実需者との契約要件など、農業経営に直結する具体的な制度設計が順次明らかになると考えられます。本「農政コラム」でも、農林水産省から新たな情報が公表され次第、制度の内容だけではなく、「農業経営にどのような影響があるのか」という視点から引き続き取り上げていきます。
※ 本記事は2026年8月時点で公表されている情報に基づいています。制度の詳細・要件は、年度、地域、公募状況等により 変更される場合があります。個別の判断にあたっては、最新の実施要領・公募要領および所管行政機関の運用をご確認ください。
やまと-農-は、農林水産省33年・行政書士12年の経験をもとに、国の制度と実際の農業経営をつないで整理します。「うちの場合はどうか」という段階からで構いません。
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