令和9年度、水田政策が大きく変わる|概算要求から読み解く「水田から生産性へ」|やまと-農-
令和9年度農林水産予算概算要求で、重点事項に「新たな水田政策の創設」3,565億円+事項要求が掲げられました。支援の基準が「水田という土地」から「作物・収量・生産性・需要」へ移ろうとしています。
令和9年度の水田政策は、従来の「水田で何を作ったか」を中心とする支援から、作物・需要・収量・生産性をより重視する支援へ転換する方向が、令和9年度農林水産予算概算要求で具体化しました。

1.令和9年度予算概算要求で、水田政策の「次の姿」が見えてきた
農林水産省は2026年8月31日、令和9年度農林水産予算概算要求を公表しました。要求総額は3兆1,377億円で、このうち「強く豊かな日本」投資枠として4,272億円を要求しています。
水田農業にとって最も重要なのは、重点事項として「新たな水田政策の創設」が掲げられ、3,565億円+事項要求とされたことです。ただし、これはあくまで概算要求段階であり、年末の予算編成を経た最終予算額・制度内容ではありません。
今回の資料によって、これまで示されていた「令和9年度から水田政策を見直す」という方針が、どの作物をどのような考え方で支援するのかという段階まで具体化してきました。
金額を明示せず、項目だけを立てて年末の予算編成過程で額を詰める要求のしかたです。制度設計がまだ固まりきっていない部分がある、ということでもあります。
したがって現時点で確定しているのは方向性であり、交付単価や対象要件ではありません。営農判断は、年末の政府予算案と、その後の要綱・要領を見てから固めるのが安全です。
2.一番大きな変化は「水田」から「作物・需要・生産性」へ
従来の水田政策では、水田活用の直接支払交付金を中心に、水田で麦・大豆・飼料用米などの戦略作物を生産することを支援してきました。
令和9年度概算要求では、この仕組みを抜本的に見直し、主食用米以外のコメについて、生産性向上の取組を前提として「収量に応じた面積払い」で支援する方向が示されています。
ここで重要なのは、単に「作付けした面積」だけを見るのではなく、収量や生産性向上の取組を支援設計に組み込もうとしている点です。農業者にとって、10a当たり収量、コスト、労働時間、販売先などを把握する重要性が一段と高まります。
3.作物別に見ると、どのように変わるのか
(1)加工用米・米粉用米・新市場開拓用米等
多様なニーズ・用途の米を安定供給するため、生産性向上の取組に対し、収量に応じた面積払いで支援する方向です。業務用米などについては、外国産米との価格競争力を意識し、より大きな生産性向上に挑戦する取組を支援するとされています。
(2)米粉用米・飼料用米
生産性向上だけでなく、米粉需要の拡大や国産飼料用米の必要量確保を図る観点から、実需者と農業者が連携する取組への支援が示されています。今後は「作ること」だけでなく、「誰が必要としているか」がより重要になります。
(3)麦・大豆
適切な輪作体系、団地化、ブロックローテーション、排水対策、多収品種などを進めつつ、水田・畑にかかわらず、生産性向上の取組に対して収量に応じた面積払いで支援する方向です。これは「水田政策」でありながら、水田か畑かという区分を越えて作物生産を捉える転換として注目されます。
(4)飼料作物
排水性向上など栽培条件の改善や、青刈りとうもろこし等の栄養収量の高い草種への転換などを対象に、水田・畑を問わず生産性向上を支援する方向が示されています。

4.産地交付金も「地域の産地形成」という視点へ
産地交付金についても、水田・畑にかかわらず、効果検証とそれに基づく支援内容の見直しを適時適切に行い、地域の実情に応じた効果的な産地形成を促す仕組みへ見直す方向です。
したがって今後は、個々の農業者だけでなく、地域として「何を重点作物にするのか」「実需者とどう結び付けるのか」「農地をどう集約するのか」という産地戦略が、従来以上に重要になると考えられます。
5.水田政策だけを見ていては全体像をつかめない
今回の概算要求では、新たな水田政策と並行して、農業構造転換集中対策の着実な推進が掲げられています。重点事項資料では、農地の大区画化等739億円、共同利用施設の再編集約・合理化等1,048億円、スマート農業技術・新品種の開発や農業機械導入951億円などが示されています。
ただし、重点事項に記載された「2,904億円」は、令和8年度当初予算494億円と令和7年度補正予算2,410億円の合計額を示したものであり、令和9年度の確定予算額ではありません。
政策を一本につなぐと、次の方向が見えてきます。
6.「5年水張りルールがなくなる」だけでは理解が不十分
令和9年度からの水田政策を考える際、5年水張り要件の扱いは現場の関心が高い論点です。しかし、制度改正の本質は、水張り要件だけではありません。
より重要なのは、支援の基準そのものが「水田という土地」から「作物・収量・生産性・需要・産地形成」へ移ろうとしていることです。したがって、5年水張り要件の見直しだけを見て営農判断をするのではなく、新制度の交付要件・単価・収量評価の方法を確認する必要があります。
見直しの背景と全体像は、別稿の 令和9年度から水田政策はどう変わるのか で整理しています。本稿は、その方向が概算要求でどこまで具体化したかを追ったものです。
7.農業経営者は、今から何を準備すべきか
現時点では概算要求段階ですから、具体的な交付単価や対象要件がすべて確定したわけではありません。それでも、政策の方向性を踏まえて準備できることはあります。
- 農地を整理する自らの農地について、地域計画上の位置付けや農地集積・集約化の可能性を確認する。
- 作物の選択肢を広げる主食用米だけでなく、加工用米、米粉用米、新市場開拓用米、麦、大豆、飼料作物等の選択肢を検討する。
- 「生産性」を数字にする作物ごとに10a当たり収量、生産コスト、労働時間を把握し、生産性を数字で説明できるようにする。
- 売り先を固める実需者・加工業者・畜産農家等との契約や需要見通しを確認し、「作ってから売る」から「需要を確認して作る」へ転換する。
- 省力化と収量向上の余地を探す大区画化、直播、多収性品種、スマート農業、農業支援サービス等を組み合わせて検討する。

8.今後、いつ何を確認すべきか
| 時期 | 確認事項 | 農業経営上の意味 |
|---|---|---|
| 2026年8月31日 | 令和9年度概算要求 公表 | 新制度の政策方向・予算要求が具体化 |
| 2026年秋〜年末 | 予算編成・制度設計 | 要求内容がどこまで採用されるかを確認 |
| 年末〜2027年初頭 | 政府予算案・事業概要 | 予算額、対象事業、制度骨格を確認 |
| 2027年度開始前 | 要綱・要領・Q&A等 | 交付単価、対象要件、申請実務を最終確認 |
9.まとめ ― 令和9年度は「水田政策」から「農業経営政策」への転換点
令和9年度の新たな水田政策は、単なる交付金の名称変更ではありません。概算要求から見えるのは、水田という土地に着目した支援から、需要に応じた作物生産、生産性向上、実需者との連携、地域の産地形成を重視する政策への転換です。
農業者・農業法人にとっては、「何を作れば交付金が出るか」だけでなく、「どの農地で、何を、誰に向けて、どの収量・コストで生産するか」を経営計画として組み立てることが重要になります。
やまと-農-では、今後、年末の予算編成、新制度の交付単価・要件、産地交付金の見直し、麦・大豆・飼料作物、環境直接支払等について、農林水産省の公表資料を確認しながら継続してお伝えします。
【重要】本稿は令和8年9月3日時点の「概算要求」を基にした政策解説です。概算要求は政府の最終予算・制度決定ではありません。今後の予算編成、法令・要綱・通知等により、内容、予算額、交付単価、対象要件等が変更・具体化される可能性があります。
やまと-農-は、農林水産省33年・行政書士12年の経験をもとに、国の制度と実際の農業経営をつないで整理します。「うちの場合はどうか」という段階からで構いません。
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