MENU
農政コラム

米価急落、新たな水田政策の”単価”はどうなる?

nou-admin

前回(9月21日)のコラム「内閣改造後、水田政策はどうなる?」から約1か月。この間、米をめぐる状況は大きく動きました。新米の季節を迎え、産地では概算金の大幅な引き下げが相次ぎ、店頭価格も下落が続いています。一方で、令和9年度から始まる「新たな水田政策」は、いよいよ支援単価などの詳細設計の段階に入りました。10月15日に就任した武部新農林水産大臣も、就任会見で単価の考え方に触れています。

今回は、米価下落の実態と背景を整理したうえで、生産者にとって最大の関心事である新たな水田政策の“単価”がどう決まっていくのかを考えます。

1.米価は「高騰」から「急落」へ

スーパーの店頭価格(5kg・税込)は、9月21日〜27日の週で全国平均2,926円となり、7週連続で下落しました。今年1月初めに付けた過去最高の4,416円と比べると、3割以上安い水準です。消費者にとっては一息つける状況ですが、生産者にとっては手放しで喜べる話ではありません。

深刻なのは産地の手取りです。令和8年産のJA概算金(玄米60kg当たり)は、前年産より2〜4割低い水準となりました。新潟一般コシヒカリ18,500円、秋田あきたこまち18,300円、茨城コシヒカリ17,000円、福島コシヒカリ14,000〜15,100円など、多くの産地で農林水産省が4月に公表したコスト指標(20,535円)を下回っています。

令和8年産の主な概算金とコスト指標(玄米60kg当たり)

コスト指標は、生産にかかる費用の目安として示されたものです。概算金はあくまで仮渡金であり、追加払いの可能性もあります。それでも、肥料・燃料・資材価格が高止まりする中で、この水準では再生産が難しいと感じる生産者は少なくないでしょう。

2.背景にある「作りすぎ」と在庫の積み上がり

価格下落の背景には、需給の緩和があります。昨年の米不足と高値を受けて各地で主食用米の作付けが増え、令和8年産の予想収穫量は741万トンとなりました。これは、国の基本指針が示す需要見通し(693〜711万トン)の上限を30万トンほど上回ります。

在庫も積み上がっています。令和8年6月末の民間在庫は243万トンと前年を大きく上回り、7月時点の見通しでは令和9年6月末に263〜281万トンまで増える可能性が示されています。加えて、高値の影響で米の消費そのものが減っているとの指摘もあります。卸や流通業者の間では「この先も値下がりする」との見方が強まっており、それが新米の取引価格をさらに押し下げる構図になっています。

需要を上回る生産と、積み上がる民間在庫(万玄米トン)

政府は9月、市場に放出した備蓄米のうち令和7年産21万トンを買い戻す方針を表明しました。ただ、政府備蓄の在庫は32万トン程度にとどまり、適正水準とされる100万トンには遠く及びません。武部大臣は「追加の買い戻しは作況や在庫、市場への供給に支障がないかを確認しながら判断する」と述べるにとどめています。

3.新たな水田政策の“単価”はどうなる?

こうした中で、生産者の経営を左右するのが、令和9年度から始まる新たな水田政策です。前回のコラムでも触れたとおり、現行の「水田活用の直接支払交付金(水活)」は抜本的に見直されます。主なポイントは次のとおりです。

支援は「作付面積」から「作物ごとの収量に応じた面積払い」へ。基準単収を大きく下回ると支援の対象外になる
5年に1度の水張り要件は求めない
麦・大豆は、水田か畑かを問わず収量に応じて支援
米粉用米・飼料用米は、実需者との複数年契約などを要件に上乗せ支援
主食用米(業務用以外)は引き続き交付対象外

農林水産省は8月31日に提出した令和9年度概算要求で、新たな水田政策に3,565億円を計上し、あわせて金額を示さない「事項要求」としました。つまり、具体的な単価や要件は、年末の予算編成の中で決まります。

新たな水田政策のポイントと、単価が決まるまでの流れ

単価について、武部大臣は就任会見で次のような考えを示しました。

収量を上げれば手取りが増える仕組みにし、多様な米を作る意欲が持てる単価にしたい
現場の要望を踏まえ、現行の水活以上の水準を予算編成過程で決める
収入保険やナラシ対策などのセーフティネットも着実に実施する

「現行水活以上」という言葉は、生産者にとって一定の安心材料です。一方で、具体的な金額はまだ示されていません。また、10月には、すでに作業が始まっている令和9年産の秋まき麦について、現行の支援単価を適用する経過措置の方向で調整していると報じられました。制度の切り替え時期に、現場が不利益を被らない配慮が求められます。

生産者が注目すべき点は、大きく三つあります。第一に、品目ごとの単価が現行水準を本当に上回るか。第二に、「基準単収」がどう設定されるか。条件の不利な地域や、天候不順で収量が落ちた年に支援から外れることがないかは、中山間地域を抱える産地にとって切実です。第三に、米粉用米・飼料用米の上乗せ要件となる「複数年契約」を、実需者と実際に結べるかどうかです。

4.米価下落局面のセーフティネット

新制度の議論と並行して、足元の価格下落にどう備えるかも重要です。米の価格下落に対しては、収入保険と、いわゆるナラシ対策(収入減少影響緩和対策)が主なセーフティネットになります。どちらも加入していなければ補塡を受けられません。今年のように概算金が大きく下がった年こそ、自らの経営がどの制度でどこまで守られているのかを、改めて確認しておきたいところです。

5.やまと-農-の視点-農業経営を支えるためには-

米価はわずか1年で「高すぎる」から「安すぎる」へと振れました。この振れ幅こそが、農業経営にとって最大のリスクです。価格が高いときには消費者の米離れを招き、価格が下がれば生産者の再生産が危うくなる。どちらに振れても、最後に困るのは現場と食卓です。農業経営を支えるために、やまと-農-として次の4点を提起します。

第一に、新たな水田政策の単価は「再生産可能な水準」を基準に決めるべきです。「現行水活以上」は出発点にすぎません。資材価格が高止まりする中で、麦・大豆・米粉用米・飼料用米などに取り組む経営が、主食用米と比べて見劣りしない手取りを確保できる水準でなければ、需要に応じた生産は進みません。基準単収の設定にあたっても、条件不利地や不作年への配慮が欠かせません。

第二に、「需要に応じた生産」は「作るな」ではなく「売り先をつくる」政策であるべきです。米粉、輸出、業務用、飼料用といった多様な需要は確かに広がる余地があります。しかし、生産者が単独で実需者と複数年契約を結ぶのは容易ではありません。行政やJA、地域の協議会が産地と実需者を結びつける役割を果たし、その取り組みを予算でしっかり後押ししてほしいと考えます。

第三に、価格の乱高下を和らげる「備蓄」の役割を立て直すべきです。適正水準100万トンに対し、備蓄は30万トン台にとどまっています。計画的な買い戻しによって備蓄を回復させることは、食料安全保障のためだけでなく、需給の緩衝材として価格の急落と急騰をともに抑えることにつながります。財政負担を理由に先送りすれば、次の不作年に再び混乱を招きかねません。

第四に、生産者自身も「備え」を確かなものにしておくことが大切です。収入保険やナラシ対策への加入、作付けの組み合わせによるリスク分散、契約栽培の活用など、経営の足元を固める取り組みは、どんな制度設計になっても無駄にはなりません。

新たな水田政策は、今後10年、20年の水田農業のかたちを決める大きな制度改正です。単価や要件が固まる年末の予算編成まで、残された時間はわずかです。現場の実情が制度設計に反映されるよう、生産者一人ひとりが関心を持ち、声を上げていくことが求められています。やまと-農-では、引き続きその動向を追っていきます。

参考資料
農林水産省「武部農林水産大臣就任記者会見概要」(令和8年10月15日)
農林水産省「米の需給見通しについて」(令和8年7月)
農林水産省「令和9年度農林水産予算概算要求について」
農林水産省「新たな水田政策(コメの中長期対策)の基本的考え方・仕組み」
農村ニュース「9年度概算要求3.1兆円 新たな水田政策は事項要求に」
日本農業新聞「秋まき麦、27年産は現行の支援単価 新水田政策へ経過措置」(令和8年10月10日)
補助金ポータル「米の価格推移」(概算金・相対取引価格)

記事URLをコピーしました